転轍器

古き良き時代の鉄道情景

D6026とD6060

 蒸気機関車D60は幼い頃から傍らを走っていた私のお気に入りの機関車で、僅かではあるが大分と直方で彼らの写真を残せたのは幸運であった。最近になって、郡山・直方・大分に在籍したD60の写真を見る機会に恵まれて、その容姿と形態を観察していたらD6026とD6060は同類他機とは違う美しさを備えていることに気づかされた。
 初めて訪れた直方機関区、構内立入は1時間の時間制限でラウンドハウスに満線の機関車達を撮ったなかにD6026〔直〕の姿があった。給水温め器に真鍮の装飾帯が施されていた。 直方機関区 S45(1970)/8/3

 何も情報のなかった“ヨンヨントオ”の前日、久大本線D60はまだ大丈夫だろうかと大分運転所に立ち寄る。そこでD6060〔大〕と会っていた。夕刻の由布院行を牽くD60群が出発時刻順に頭を上り方に向けて待機していた。 大分運転所 S44(1969)/9/30

 要塞のような製粉工場をバックに上り列車を牽くD6060〔大〕が佇んでいる。機関車好きをして“美魔女”と言わしめたD6060のサイドビューは驚くほど美しい。言葉では形容できない優雅さを感じる。運転室の大きな1枚窓、その下の二軸従台車はこの機関車の重厚さを醸し出している。 628レ 久大本線筑後吉井 S44(1969)/3/30

 D6060が持つ優雅さはいったい何だろうかと他のD60と比べた時、煙突のスタイルが違うということに気づいた。D60の化粧煙突は通常スタイルと上部に継足した鍋蓋スタイルがあった。D6026とD6060はそのどちらのスタイルではない、太く優雅なラインを描いているように見える。小川さん曰く、煙突中央部に継足しを入れた胴伸ばしタイプではないか、との推測は的を得ているように思う。筑後吉井上り2番線へ入った列車は由布院鳥栖行で、牽引機D6060〔大〕の煙突がとても美しく捉えられている。 628レ 久大本線筑後吉井 S44(1969)/3/30

 鳥栖発大分行6輛編成を牽くD6060〔大〕は豊後中村を出て第2・第3野上川橋梁を渡ると野矢に向けて上り25‰が始まる。機体を傾けて猛然とダッシュするD6060の顔はとても凛々しく映る。
 昭和44年春の改正は新製気動車キハ45・53が投入され気動車化が若干進んだが、このスジは翌年の春まで客車列車で存置された。 629レ 久大本線豊後中村~野矢 S44(1969)/7/26

 水分隧道出口から小ケ倉隧道の間で待ち構えたD6060〔大〕の牽く豊後森発大分行1635レ。この時1635レの前を行く貨物6691レはD6064〔大〕が貨車ではなく軌道試験車を牽いていた、という私にとっては驚くべき話を聞いた。 久大本線野矢~由布院 S44(1970)/8/2

 D6060の公式側後方からの角度。20立方米形テンダの形態がよくわかる。後部欠き取りの高さが低く、石炭と水の境目を現すリベットラインがテンダ後方まで回り込んでいるのが特異に映る。D50の20立法米形テンダの後部切り欠きはリベットと同じ高さが原形とのこと、D6060は給水の際に溢水が脇に出るのを防ぐために高さを若干上げたものと思われる。D6026はリベットラインまで欠き取りがきて、こちらは原形のようである。 鳥栖 S44(1970)/8/2

 鉄道ジャーナル35(昭和45年5月)号掲載の「車両基地」から
 この号は昭和45年1月分が掲載されている。機関車の廃車の欄の一番最後にD6060が記載されている。『配置区:大分、老朽・余剰、解体、日付:1.31』とある。当然私は鉛筆でチェックを入れ、大分運転所でD6060と会ったのは昭和44年10月が最後であったので残念の思いでいっぱいだった。

 D6026〔直〕の後方からの角度。D6060と同様に見える。除煙板は小工式、ボイラ梯子位置は砂箱の後、運転席窓は1枚窓、区名札の位置は窓下でD6060と同じ装備である。テンダは双方20立方米形であるが後方欠き取りの高さは前述のように異なっている。 D6046〔直〕+D6026〔直〕 1746レ 筑豊本線筑前山家 S44(1969)/4/7

 D6026〔直〕の右サイド。煙突は後部の蒸気溜と高さを比較すると煙突胴部中央で継足した印象を受ける。列車密度の高いこの複線区間、D50140〔若〕牽引の若松発原田行723レとD6026〔直〕が牽引する原田発鹿児島本線乗入れの門司港行1724レがすれ違う。 筑豊本線筑前垣生~筑前植木 S44(1969)/7/23

 D6026〔直〕+D6031〔直〕の重連貨物列車は筑豊本線から鹿児島本線へ渡って鳥栖へ向かう。D6026〔直〕の給水温め器の装飾帯が輝いて見える。 1765レ 原田 S43(1968)/7/31

 夕刻の折尾駅はD6026〔直〕の牽く若松発飯塚行739レと豊前川崎発伊田線経由若松行736Dが並んでいる。D6026右サイドのフロントデッキからキャブにつながるランボードの白色がよく目立つ。折尾構内は香月線仕業の8620が機回しを行うからなのか渡り線があって、入換信号機が見える。 筑豊本線折尾 S45(1970)/8/2

 巨大な給炭塔の下から動き始めるD6026〔直〕。フロントデッキの頑丈そうなリベットが目を引く。撮影年代がヨンサントオ以前だからか、標識灯に反射板が取付けられている。給水温め器からのパイピングが手にとるようにわかり、低い位置からの角度はとても恰好良く映る。 直方機関区 S43(1968)/7/31 以上10点 写真提供:小川秀三さん