転轍器

古き良き時代の鉄道情景

78684 右運転台

 大分構内の入換専用機78684〔大〕は動力逆転機を装備した右運転台に改造された機関車であった。G鉄グラフィティ藤田高士さんより、78684のことについて分鉄局OBの方に聞いた話からその詳細を知ることになった。G鉄グラフィティでは「ある機関士の独白」として連載されている。

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 78684〔大〕は前照灯を装備しない入換専用機。「機関車の系譜図4(臼井茂信著/交友社/昭和53年11月刊)」に昭和42年当時のこの機関車の写真が掲載されている。煙突は美しい化粧煙突で、パイプ煙突に交換されたのはこの後と思われる。前照灯はこの時すでに標識灯に換えられていた。動力逆転機が装備されているのがわかる。 大分運転所 S45(1970)/9

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 以下、藤田高士さんの聞き取りにより明らかになったことを記す。
 78684は原則として頭を別府方向にして下り貨物入換に限定使用されたとのこと。その理由は、(1)日通付近の貨物ヤードの状況を機関士が状況把握しやすい。(2)頭を鶴崎方向にして左運転の場合、左後方を向いた姿勢が続くことが多く、運転しにくさを改善するため。
 また、同様に上り貨物入換は頭を鶴崎方向にして機関士が貨物ヤードの状況を把握しやすいように行っていたとのこと。ちなみに大分駅入換機は3仕業設定、下り入換・中入換・上り入換があった。
 写真は頭を別府方に向けて入換中の78684〔大〕 大分 S45(1970)/9

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 大分駅下り方の引上線に頭を別府方向にした右運転台の78684を置くと確かに運転しながらヤードの状況を見渡せることがわかる。

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 大分近郊の8620使用による小運転列車が減少して機関車運用に余裕が生まれたことから、
現場機関士からの要望を加味して下り入換専用として改造を行った、とのことであった。

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 大分駅起点方の構内平面図。
 大分駅入換種別は3通り。下り入換は日豊下り貨物、上り入換は日豊上り貨物、中入換は豊肥・久大貨物及び「日豊豊肥久大客車」と「客車貨車仕業検査入換」とのこと。大分客貨車区の検査車輛(仕業及び交番検査)の入換が毎日数十輛あったそう。機関士として体験された方の現場ならではの声を伝聞できたのは筆舌に尽くしがたい喜びであった。藤田高士さんに感謝申し上げたい。

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 78684右運転台の改造の話は北九州市大塚孝さんからも聞くことができた。大分側の話と呼応しているかのような内容で驚きであった。以下大塚孝さんからの伝聞。
 78684の改造に際して、小倉工場は大分局から大いに感謝され、組合からも礼を言われたとのこと。工事に関するマルキ通報未確認のため改造時期は定かではないが、門司の9600の改造が昭和32年度であったので、同時期か少し後ではないか。直方と鳥栖の入換機関車は動力逆転機付であったが、左運転台のままなので、向きを逆にして直方中部入換(石炭車の仕分け)や鳥栖ハンプ入換に使っていた、とのことであった。
 78684について、くしくも大分局側からと小倉工場側からの生の話を聞けたのは偶然でもあり幸運であった。

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 給炭線で整備を受ける78684〔大〕。頭は別府方へ向いている。 大分運転所 S46(1971)/8

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 私が元気な姿の78684を見たのは昭和46年の夏が最後。以後ネガに残っていないか探したところ、その年の年末にはこのような姿に変わり果てていた。書類上の廃車は昭和47年3月となっていたが、46年末は稼働していなかった。稀有な機関車78684、長い間ごくろうさまと伝えたい。 大分運転所 S46(1971)/12