キハ07ーこの形式を知ったのはいつ頃だったか思い出してみる。汽車好きの少年は鉄道趣味誌や模型カタログを見ていたので歯車式とか機械式、液体式といった言葉は耳にしていたがその違いが何かは全くわからなかった。中学校社会科の授業で地図帳を開くと、宮原線肥後小国と熊本電鉄菊池の間に将来鉄道でつながるであろう破線が記されていた。宮原線の存在を意識したのはこの頃で、C11と流線形のキハ07が走っていたことを知る。将来この区間がつながったら車輌は何が走るのだろうか、といった淡い期待を寄せていた。時あたかもSLブーム到来の昭和43年頃であろうか。
宮原線の歴史を振り返ってみる。昭和12年6月、恵良～宝泉寺間7.3Kmが開通したが、昭和18年9月には、戦時体制の金属供出でレールは撤去され一時休止、昭和23年4月に宝泉寺まで復活、昭和29年3月、宝泉寺～肥後小国間19.3Kmが延伸し宮原線恵良～肥後小国間26.6Kmが全線開通した。昭和32年11月、ディーゼル化でキハ073輌投入。昭和45年9月、豊後森機関区機関車配置終了。昭和59年11月、宮原線廃止。機関車は開通後C12、昭和29年頃よりC11に変わる。気動車は昭和32年から43年頃までキハ07、以後キハ20、52、53と変遷し廃止時はキハ40であった。 写真は肥後小国行列車の車内から見た玖珠川橋梁。
キハ07は昭和10年、ガソリン動車のキハ42000として当時流行の流線形で誕生した。その後エンジンをディーゼルエンジンに載せ換えてキハ42500に、昭和32年4月の称号規定改正でキハ07となった。同年11月、キハ0741・0742・0743の3輌は豊後森機関区に配置され、宮原線で約11年間活躍した。
初めてキハ0741を見たのは昭和45年春、久大本線下り列車の車窓からで、8620とD60とともに扇形庫に納まって、既に廃車にはなっていたが現役然の姿に見えた。S45(1970)/6
豊後森機関区は久大本線無煙化後は配置車輛無しの乗務員区となった。しかし構内配線、白い大形のコンクリート扇形庫と転車台、木造の重厚な造りの機関区本屋も蒸機時代のままで活況を呈していた。 キハ0741〔分モリ〕 豊後森機関区 S53(1978)/8
扇形庫で眠るキハ0741に「爺さん、宝泉寺までの仕業に行ってきます！」と声をかけて加速するキハ402041〔分オイ〕。 豊後森発宝泉寺行229D 豊後森 S59(1984)/3/28
昭和59年11月は豊後森機関区開設50周年を迎え、キハ0741は再塗装され記念式のために扇形庫から出されて綺麗な車体が披露された。長年の留置で色あせていた塗装やレタリングは化粧直しでまるで全検出場車のようになり前面の検査標記[41-10/小倉工]が印象的であった。 豊後森機関区 S59(1984)/11/1
キハ0741の黒光りする台車はTR29という台車でシンプルなスタイルをしている。軸受に浮き出たアルファベットはNSKと読める。ブレーキシューは枕バネの両側に見える。車輪はスポーク車輪であった。
昭和61年10月、元豊後森機関区の機関士さんから「キハ0741の保管場所は豊後森から大分運転所に変更」と聞いて驚嘆する。10月10日深夜、キハ0741は29年間住み続けた豊後森の地を後にした。久大本線最終列車の後、DE10牽引、時速40㌔以下の速度で約18年ぶりに本線を走行した。 DE101195〔大〕＋キハ0741〔分モリ〕＋ヨ8000 大分 S61(1986)/10/10
私は長年豊後森機関区の扇形庫に住み続けたキハ0741を見て、同じ時を過ごしたC11や8620、D60とともに蒸気機関車基地の設備も線路配置もそのままの豊後森機関区で保存できたら、あの時代の風景が残せたら、といったはかない夢を思い描いていた。残念ながら豊後森から大分へ保管場所を移動したキハ0741は大分運転所で国鉄時代の終焉を迎えた。新たな時代に新たな地、九州鉄道記念館で保存されることとなった。 大分運転所 S61(1986)/10
