転轍器

古き良き時代の鉄道情景

夏のある日の交換風景

 偶然通りがかった駅の踏切警報機が鳴り出したので建物の脇からカメラを構えたのではないか。当たり前の日常の風景が切りとられていた。

 枕木柵で仕切られた構内にあずき色の下り電車が姿を現す。線路脇はもうすっかり忘れ去られた鉄道風景が垣間見える。古枕木、リレーボックス、転轍てこ、転轍器標識、電話や拡声器など。

 いつもの1ユニット4輛編成と思いきや2ユニットの長い編成には惹かれるものがある。後ろの編成は冷房装置が載っている。

 改札口から出てきた乗客は平面横断通路を渡り、ゆるやかなスロープを上ってホームに出る。跨線橋の柱のないホームはとても広く感じる。機関車が牽く上り列車が待っていた。周辺の建物からすると駅構内だけ時代から取り残された感がある。

 発車の合図で機関車が始動する。目の前に紅い巨体が現れて視界が遮られる。

 重いモーター音の次は車体がきしむ乾いた音が続く。

 カメラに向かって旅人が手を振ってくれる。

 上り列車が出てしばらくして長い編成の下り電車が発車した。切りとられた当たり前の日常の風景はいつの間にか過ぎ去ってしまった、忘れていた鉄道情景となっていた。遠い夏の日の交換風景を懐かしむ。 日豊本線高城 S55(1980)/7