転轍器

古き良き時代の鉄道情景

D6058 シールドビーム2灯

 私の中学生時代、汽車の写真を撮りに行った時、郡山から来たD6058は当たり前のように前照灯2灯の姿で大分構内を闊歩していた。その装備が普通であると思っていた矢先の昭和45年正月に会った時は大形前照灯に交換されて大きな驚きを覚える。久大本線D60を記録してこられた神奈川県の小川秀三さんと縁あって貴重な写真を拝見する機会を得た。あの頃“確かに”見た2つ目のD6058に魅せられて時代の記録をお借りした。

 日田で発車待ちの混合列車の先頭に立つD6058〔大〕に惹きつけられる。郡山から昭和43年8月に大分に転属となった58号機は磐越東線時代のシールドビーム2灯で久大本線を稼働していた。客車2輛の混合列車は日田19:58発の久留米行で、豊後森17:33発日田18:25着の1638レの継走と思われる。当時久留米終着は2本の気動車列車だけ、客車列車はこれが唯一であった。久留米で客扱いを終え編成はそのまま鳥栖まで向かう。 696レ 久大本線日田 S44(1969)/4/4 撮影:神奈川県 小川秀三さん

 活気溢れる豊後中村に入線する列車はD6058〔大〕の牽く大分発豊後森行で大勢の乗客が待っている。構内に目をやると、本屋側ではATS-Bと標記された黒いリレーボックスのような箱が見える。その後ろは信号梃子扱い所で、梃子がひとつ倒れ、上り場内信号機の梃子と思われる。豊後中村の上り場内信号機は駅進入の線形がカーブしているからか異様ともいえる高さのある腕木式信号機が印象に残っている。ホームの下からは各信号機へつながるワイヤが伸びているのがわかる。貨物上屋は出荷される珪藻土が大量に積上げられ、後方は珪藻土の工場が堂々と建っている。駅付近一帯は白い崖が露出する珪藻土が多く産出され、工場も複数立地して製品輸送は鉄道貨物が担っていた。良き時代の鉄道情景が切りとられた大切な記録として記憶したい。 640レ 久大本線豊後中村 S44(1969)/3/31 撮影:神奈川県 小川秀三さん

 大形前照灯LP403に交換されたD6058〔大〕。副灯の取付け板が残っている。もっと久大本線で頑張ってほしかったがこの年の10月直方へ行くことになる。 640レ 久大本線天神山 S45(1970)/1/1